尚成の場合、学校の友達が蔑むことや気持ち悪がること、家族が地域や国家にとって悪とみなしていることに同意している時間は即ち、自分自身を蔑み気持ち悪がり、悪とみなす時間そのものでした。振り返ってみればあくまで共同体の庇護なしでは生き延びられない期間をやり過ごすための擬態だったわけですが、もちろん当時はそんなふうに割り切れておらず、この時間は永遠に続くのだと思っていました。擬態はこうして、尚成という個体を十八年間生き延びさせたあと、それと全く同じ方法で、尚成という個体の感覚を十八年分殺したのでした。
朝井リョウ『生殖記』(小学館、2024年)