蛍が湧き出る森。おとぎ話の舞台のような場所がこの小さな田舎町にあるとわたしに教えてくれたのは、亡き祖母だった。
わたしが小学校四年のことだった。自身の死期を悟った祖母は、たったひとりの孫娘であるわたしにこの場所のことを話して聞かせた。
『世界にはたくさんの綺麗な景色がある。でもね、自分のすぐ傍にも、世界中に誇れるほどの綺麗な景色があるの。そのことを知らないひとは一生見られない。知っていても、季節がずれたり天気が邪魔をしたらやっぱり見られない。そして、行こうと自分の意思で歩かない限り、見られない。しあわせってのも、そうよ。覚えておいてね』
町田そのこ『蛍たちの祈り』(東京創元社、2025年)