母を追い出したのは父ではなく、むしろ自分ではないだろうか、という疑念が今も常についてまわる。自分が役に立ったとは思えないけれど、もっと家事を手伝っていたら。せめて話し相手になってあげればよかったのではないか。梅干しから味噌まですべて手作りする人だった。家族の誕生日は常に完璧に祝った。一年中、ひっきりなしに続く法事に駆けずり回り、来た人を手厚くもてなした。いつもおしゃべりで笑顔だったけれど、父の顔色をびくびくと窺っていることに翔子は気付いていた。母がたった一人の力で、この怠惰な集団を家族という体裁に整えたのだ。
柚木麻子『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋、2015年)