洗わないで放置した鍋の中の濁った水みたいな胸の内に、毅然が足りない、という言葉が浮かんできた時、二谷は芦川さんを尊敬するのを諦めた。諦めると、自慰の手助けに彼女のことを想像するのも平気になった。それは不思議なことで、なんとなくかわいいと思っていた時よりも、彼女の弱いところにばかりに目がいくようになった後の方が、想像の中の彼女は色気を放った。聞いたことのないはずの種類の声で、彼女はいつも泣いている。彼女が泣けば泣くほどよかった。
(高瀬隼子、2022『おいしいごはんが食べられますように』講談社)
The shoulders of Giants
洗わないで放置した鍋の中の濁った水みたいな胸の内に、毅然が足りない、という言葉が浮かんできた時、二谷は芦川さんを尊敬するのを諦めた。諦めると、自慰の手助けに彼女のことを想像するのも平気になった。それは不思議なことで、なんとなくかわいいと思っていた時よりも、彼女の弱いところにばかりに目がいくようになった後の方が、想像の中の彼女は色気を放った。聞いたことのないはずの種類の声で、彼女はいつも泣いている。彼女が泣けば泣くほどよかった。
(高瀬隼子、2022『おいしいごはんが食べられますように』講談社)
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