かつて写真は非常に限られたタイミングでしか撮られず、それが現在との断絶を印象づけ、写真に備わる一種の「思い出性」とでも呼べる性質を支えていた。これは人間の記憶に似ている。大部分を忘れてしまうからこそ、覚えているごく少数の記憶が思い出として重宝される。思い出とは、その少なさに支えられている。[…]
量の問題は写真にとってとても重要だ。死ぬときに見るという走馬灯は、大部分を忘れたダイジェストだから可能な現象だろう。インスタグラムの「ストーリーズ」は写真をあくまで思い出の領域にとどめておこうとする試みのように思える。
(大山顕、2020『新写真論 スマホと顔』株式会社ゲンロン)