時間の長短の別はあれど、認めがたいことがあったとき必ずどこかで暴発していた。刑務所は制度がそれを許さない。サクマは身を以てあの罰の苦しさを知っていたので、ここへきて初めて罰を受けることの恐ろしさを味わった気がした。罰は受けている瞬間や受けた後なんかよりも、次受けるかもしれないというのが一番怖いのだ。外にいたときに感じた「おまえもこうなるぞ」という強迫観念と罰が持つ抑止力とは多分同質のものだ。
(砂川文次、2023『ブラックボックス』講談社)
The shoulders of Giants
時間の長短の別はあれど、認めがたいことがあったとき必ずどこかで暴発していた。刑務所は制度がそれを許さない。サクマは身を以てあの罰の苦しさを知っていたので、ここへきて初めて罰を受けることの恐ろしさを味わった気がした。罰は受けている瞬間や受けた後なんかよりも、次受けるかもしれないというのが一番怖いのだ。外にいたときに感じた「おまえもこうなるぞ」という強迫観念と罰が持つ抑止力とは多分同質のものだ。
(砂川文次、2023『ブラックボックス』講談社)
祐治は人の一生を想像した。
生まれ落ちた時に水のいっぱい入った皿を持たされ、こぼさないように歩く。歩いている途中でいつの間にか水は蒸発したり、躓いた拍子にこぼれ落ちたり、また人に与えたりして減っていく。人によって皿が空になる時間はまちまちである。
水をたっぷり残しても、褒められるわけでも、何かもらえるわけでもない。弱いもの同士で寄り合い、危険を避け、見て見ぬ振りを決め込んで辛いことや嫌なことをやり過ごして一生を終えてどうする。儚い時間を歯を食いしばって耐えて何になるだろう。
(佐藤厚志、2023『荒地の家族』新潮社)
かつての尚成は、理由が差し込まれる隙間がないほど確定的に、自分は同性愛個体だとバレてはいけない、特に学校関係者や家族には絶対に知られてはならないと思い込んでいました。
それはなぜか。
決して、自分が周りの個体と違うことそれ自体を恐れていたからではありません。その事実を以て当時所属していた主な共同体側から、均衡、維持、拡大、発展、成長を阻害する個体として認定されることを恐れていたからです。
それはなぜか。
共同体が目指すものを阻害する存在だと認定されることは、ヒトの場合、共同体側から〝悪〟とみなされること、つまり共同体から追放される可能性を高めることだからです。
(朝井リョウ、2024『生殖記』小学館)
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