2025-02-19
Tinder Swipe Stories
Tinderが「Tinder Swipe Stories」という企画をやっている。Tinderでの出会いをテーマにした体験談を集める試みだ。

Hey Tinder member,
We can’t wait for you to share your Tinder Swipe Story! Whether they are your love match made in heaven, your unexpected best friend for life, somewhere in between or none of the above, we want to hear all about it :)
この文面を読んで、「somewhere in between or none of the above」というフレーズが印象に残った。「運命の恋」や「生涯の親友」といった分かりやすい物語に収まらない関係が、確かに存在することを認め、その曖昧さをそのまま受け止めている。たった一度きりのもの、後になってようやく意味を持つもの、それらもすべて「いいよね」と包み込む軽やかさには、実にTinderらしい強さがある。
というのも、様々なマッチングアプリが「真面目な出会い」をプロモーションする中で、Tinderだけは「チャラい」出会いの可能性を否定していない。



とはいえ、Tinderが90〜00年代の「出会い系」のように、匿名性が高く、目的がほぼ肉体関係に限定された即席マッチングサービスなのかというと、そういう訳でもない
Tinderの本質は「人が人を求める」という情欲の一つひとつを、等しく扱うことにある。真剣に婚活するのも、親友を探すのも、一夜の関係を求めるのも、すべて「つながりたい」という欲求の一種に過ぎない。Tinderが目指しているのは、それらに倫理的な優劣をつけず、フラットに応えようとすることだ。
その「つながる」という行為を、もう少し視覚的に、あるいは手触りのある形に落とし込んだマーケティング施策がある。
2022年の秋、Tinderが「Swipe Mart」という期間限定のポップアップストアを渋谷・宇田川町にオープンした。「Tinderが運営するコンビニ」というコンセプトの空間で、ブランドの世界観を体験できる施策である。
店内には、スナック菓子や清涼飲料水を模したTinder印のオリジナル商品が並び、Tinderブランドのアパレルグッズなども販売されていた。事前の告知を見て、スウェットや靴下を狙って行ったのだけれど、僕が着いたときにはすでに完売。開店から数分で即完したらしい。





無数に存在する誰かの中から、自分が「これだ」と思う相手を選ぶプロセスは、コンビニの陳列棚で商品を手に取る行為とよく似ている。
炭酸水にするか、スポーツドリンクにするか。一度はカゴに入れたけれど、やっぱり戻すかもしれない。誰かと過ごす時間も、Tinderを開いて右へ左へとスワイプする指の動きも、本質的にはこの(まるで記憶に残らないようなレベルの)迷いと決断の繰り返しだ。出会いとは、常に選択的接触の過程にある。
ただ、コンビニで買ったものが確実に身体に影響を与えるように、出会いもまた、単なる消費では終わらない。どんな動機であれ、選び取った人との関係は気づかぬうちに人生に何らかの痕跡を残していく。
それは意識されることのないうちに蓄積し、ある日ふとした瞬間に、自分のどこかに残っていたことに気づくのだろう。