2024-08-14
テツのWebサイトを作った
大学時代のルームメイト・テツが開業したので、お盆付近の三連休を使ってWebサイトを作成した。
広島市の行政書士事務所・イエローテイル
https://yellowtail-legal.com/
制作は、横浜にいる僕と広島にいるテツの間で、Google Meetを繋ぎっぱなしにしながら行った。Figmaで荒っぽく構成を書いた後、そのままStudioを開いてサイト構築に取り掛かる。テキストコンテンツをテツにStudio上で入力してもらいながら、僕が同時進行でレイアウトとスタイリングを整えていく。
「サービスの特徴は、ニーズを並べて説明してみよう」
「問い合わせから着手までのフローチャートがあった方が便利じゃない?」
「そういえば、料金表が必要かも」
アイデアが出るたびに、サイトマップのレベルでガシガシ変更を加えていく。まるで炭鉱を力任せに掘り進めているようだった。マトモな制作会社のPMが見たら卒倒してしまいそうな光景だが、気心の知れた仲間と小さなサイトを作るなら、こういう荒っぽいやり方も捨てたもんじゃない。むしろStudioの真価が最も発揮される瞬間とも言える。
ただ今回は、並行してChooningの公式サイトのリニューアルを行なっており、そっちではFramer(海外のStudioに似たツール)を使っていた。StudioもFramerも同じノーコードのサイト構築ツールで、似たようなインターフェースなのだが、StudioではCommand + Gでグループ化できるのにFramerではそれができない(Option + Command + Returnになる)とか、Framerではmax-widthを指定することができるけどStudioではできないとか、マルチデバイスに対応する際の上書きルールが異なるとか、細かな違いがいくつもある。なんならFigmaも同じような見た目をしているので、それぞれの画面を行き来していて気が狂いそうになった。
ものづくりを仕事にしていてよかったと感じるのは、友人が必要としているものを、自分の手で作り、届けることができることだ。
今回のサイトの中にテツの略歴を掲載した箇所があり、その部分は僕が書いたのだが、僕はこの文章を一筆書きで、諳んじるようにして書くことができた。あまりに自然に書けたことに驚き、改めて彼が身近な存在であることを感じる。そして、そんな友人の門出に寄り添ってものを作れることが、何より嬉しかった。
略歴 : 1990年、広島市に生まれる。修道中学校・高等学校を卒業後、横浜市立大学に進学。在学中、横浜市寿町にてホームレスの自立支援活動に取り組み、フィリピンで語学留学を経験。大学卒業後、大和証券株式会社に入社。その後、株式会社LITALICOに転職し、障害者の就労支援に携わる。さらに数社でキャリアを積み、シンガポールやカンボジアなど海外での就労も経験。2024年、行政書士資格を取得し、故郷の広島市にて行政書士事務所「YellowTail」を開業。
中高時代は野球部で内野手を務め、現在も草野球で汗を流している。大学時代からE&Jカシアス・ボクシングジムでボクシングを始め、プロライセンスを取得。今でも毎日のトレーニングを欠かさない。
テツと出会ったのは2009年、僕が横浜市大に入学して一ヶ月も経っていない頃だった。沢木耕太郎と水島新司が好きな僕たちは、その二年後に共同生活を始めた。二十代前半をラーメン屋の上の豚骨の匂いが染みついた部屋で三年間(テツの留学期間があったので、実質的には二年間)共に過ごした僕たちは、お互いの人間性における重要な部分を(つまりお互いがどれほど愚かな男であるかということを)かなり決定的に理解していると思う。その後の十年で生活習慣や人生観は変わっているはずだが、不思議なことに、その変化も含めてあの頃の姿と寸分違わないように感じられる。これはきっと、数式でいうところの「傾き」を理解しているということなのだと思う。まるで移動する点Pの軌跡を追うように、こういうふうに変わっていくんだろうな、という変化の方向やスピードを捉えているので、変化した姿も含めて理解の範疇にあるということだ。
与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」に「友を選ばば 書を読みて 六分の侠気 四分の熱」という僕の好きな一節がある。「義理人情と情熱を併せ持ち、知的好奇心に溢れた者を友達に選びなさい」という意味だと解釈しているが、テツと付き合っていると、まさにこの言葉通りの人物だな、と思うことがある。彼が行政書士として新たな一歩を踏み出すと聞いたとき、僕はその人柄が多くの人々を支える力になるに違いないと確信した。だから、もし法律業務や行政手続きで悩んでいることがあれば、一人で抱え込まずにテツに相談してみてほしい。きっと力になってくれるはずだ。
2024-08-17
Podcast「岩首談義所談義」を始めた
「岩首談義所談義」というPodcastを始めた。新潟県佐渡市の旧岩首村にかつて存在した「岩首談義所」という施設にまつわる思い出や経験を記録し、その価値を伝えることを目指して始めたものだ。先ほど初回のゲストとの収録を終え、いまそれを聞き返しながらこの文章を書いている。
岩首談義所談義
https://open.spotify.com/show/09rBYoieFXHcELiibVmsk6
岩首談義所とは、新潟県佐渡市の旧岩首村地域に存在していた施設である。2007年に廃校となった岩首小学校を再利用して設立されて以来、長年にわたり、催し物の開催や高齢者の憩いの場、子どもたちの遊び場として、住民たちの交流の中心となっていた。また、環境調査の拠点や大学生の合宿地としても活用され、東京工科大学、早稲田大学、横浜市立大学といった首都圏の大学生や大学関係者など年間約400人が訪れる場でもあった。このように、長く地域内外の人々に親しまれてきたが、2023年に集落の自治組織の判断によって閉鎖されることになり、今年度には建物の解体工事が予定されている。
「談義所」という一風変わった名称は、発足に関わった哲学者で東京工業大学名誉教授の桑子敏雄氏のアイデアによるものだ。桑子氏は、岩波『図書』2012年12月号で岩首談義所について触れながら「民主的談義は、地域社会の重要な課題を現場で切実に感じることのできる人々の直接的な話し合いによる問題解決の方法」と説明している。こうした背景からも分かるように、岩首談義所は単なるコミュニティスペースに留まらず、地域社会の課題解決を目指して運営されてきた。
僕が岩首談義所を初めて訪れたのは2013年で、大学の部活の合宿地として利用させてもらったのがキッカケだった。それ以来、閉鎖されるまでの十年間、コロナ禍を除いて年間三、四回のペースで通い続けた。時には一ヶ月以上滞在し、用務員室で寝泊まりしながら、村人たちの日常をぼんやりと眺めて過ごすこともあった。東京のITベンチャーでソルジャーとして戦いに明け暮れていた僕にとって、それはまさに心の奥に深く沁み入る安らぎのひとときだった。
二十代の頃は、ゴールデンウィークや夏休み、シルバーウィーク、冬休みなど、まとまった休みがあるたびに大学の友人や職場の同僚を連れて談義所に足を運んだ。半ば無理やり連れてこられた者も少なくないが、僕の友人では、岩首に訪れたことのない者の方が少ないくらいだろう。
とにかく、僕はこの施設に強い思い入れがあり、もっとも熱心な外部者の一人だった。だからこそ、閉鎖と解体が決まったことはとても残念に感じている。しかし僕がそれを嘆いてみせたところで、自己満足以上の意味はない。地域に住む人たちの意思決定について、そこで暮らしているわけでもなく、その未来に責任を負わない立場から意見を述べることは慎むべきだ。
僕にできるのは、これまで運営に尽力してきた人々に感謝の意を表すこと、そして、岩首談義所というプロジェクトから僕たち、さらには後世の人たちが何かを受け継ぐための道筋を示すことだ。そうした思いを胸に、Podcastを始めることにした。
このPodcastの目的は、いまは亡き「岩首談義所」の価値を伝えることだ。ただし、対象そのものを直接描写するのではなく、対象が周囲に与えた影響を観察することで、その価値を表現したいと考えている。そのために僕は友人たちを訪ね、談義所にまつわる語りを集めていくつもりだ。
また、サブテーマとして「継承」を掲げている。岩首談義所が消滅の危機に直面したとき、多くの関係者がこの問題に向き合った。その功績として、最終的に談義所は閉鎖されたたものの、近隣の施設に一部の機能が引き継がれ、これまで行われていた催事や取り組みも継続されている。また、運営組織は社団法人化され、属人的だった業務が体系化されつつある。これは正当な継承の一つといえるだろう。しかし、今回の出来事を通じて、僕は現代社会には従来の継承とは異なる(あるいはそれを補う)新たなオプションを模索する必要があると感じるようになった。だから、この機会に継承という営みについて、友人たちと共に深く話し合ってみたいと思う。
一つのヒント、手がかりとなるのが「ミーム(情報因子)」という概念だ。
この言葉は、近年「ネットミーム」や「猫ミーム」という表現で一般に浸透しているが、もともとはリチャード・ドーキンスが『利己的な遺伝子』の中で提唱した造語であり、英語の「gene(遺伝子)」と、ギリシャ語の「mimeme(模倣)」を組み合わせたものである。生物が交配というコミュニケーションを行い、遺伝子を通じて情報を伝達するように、文化も何らかのコミュニケーションを行って情報因子を渡し、文化を伝達する(例えば、僕の顔立ちは遺伝子によって伝えられたもので、服装はミームによって伝えられたものだ)。
文化を伝達するコミュニケーションには、師匠が弟子に伝える技術や知恵、企業における社員教育プログラム、村での祭りの準備や稽古といったものが挙げられる。母親が家庭内での伝統的な料理の作り方を子どもへ伝えることや、家父長制において父親から長男へと伝えられる家業や伝統的価値観などもその一例といえるだろう。
これらは個人がその人生の一部を共同体に捧げる態度が前提となっており、それゆえに個の自己実現を重視する現代社会では、次第に受け入れられにくくなっているように感じる。そこで、もっと僕たちにふさわしい、これまでと違った継承のあり方を模索したい。情報の伝達手段が飛躍的に進化し、日常的に接する情報量が増え、人間と情報の関係が大きく変化している時代だからこそ、きっと新しい形でミームを伝えられる可能性もあるはず。その一つが、このPodcastだ。
僕はこのPodcastに、友人たちの力を借りながら、岩首談義所のミームをありったけ詰め込むつもりでいる。そして岩首談義所という文化を継承することを共通の目的として談義を交わし、新たな継承のあり方を形にしていきたい。