2024-02-23
台湾犬とちばてつや的光景
台湾・新北市の板橋(バンチャオ)という町に滞在している。台北の中心地から電車やバスで三十分ほどの距離に位置するこの町は、田舎というほどではないものの、台北に比べると地元の風情が色濃く、素朴な魅力が息づくエリアだ。首都から離れた分だけ観光客の賑わいも薄れ、飲食店や物産店であっても英語は通じにくい。ここでかれこれ一ヶ月ほど暮らしている。
バンチャオの町には野良犬がいる。よく見るのはその名もズバリ台湾犬というやつで、真っ黒で痩身の中型犬だ。これが人混みの中を首輪もつけずに悠々と歩いている。ただ、このあたりでは飼い犬であってもリードを繋がずに散歩している人も多いため、一見しただけではそれが野良犬かどうかの区別がつかない。いずれにせよ、この町の犬はそこらを自由にうろうろしている。
町の人たちの態度は概ね寛容的で、人流に逆らって突っ込んでくるものがいたとしても「あらあら」といった具合に笑って道を譲っている。老人が犬を手招きをして、懐から取り出した何か(肉か、パンか、大きな饅頭か)を食べさせている姿を目にしたこともある。
ふと『あしたのジョー』に出てくるドヤ街のことを思い出した。ちばてつやの漫画には、こういった生活の景色がよく描かれている気がする。きっと、1960年代頃までは日本でも同じような光景が見られたのだろう。
深夜、コンビニへ向かう小さな裏路地でギロリを光る二つの目と遭遇した。あれは野良犬というより野犬と呼んだほうが相応しい気がする。ほとんど本能的に足が竦んでしまった。
ときどき、キノコ採りの最中などに熊と遭遇した人が、決死の抵抗や機転によって命からがら生き延びたというニュースを見ることがある。犬程度でこの体たらくの僕なんかは、熊と対峙した日には腰を抜かしてしまって何もできないだろう。くれぐれも山林方面のアクティビティとは距離を置いた人生を送るよう心がけたい。