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さわDの公認会計士試験がひと段落したので、麻布の同期である海野と内野を呼んで、渋谷のタイ料理屋「ガパオ食堂」に集まった。

もともとは七月のさわDの誕生日を祝おうという話だったのだが、試験勉強で忙しいというので先延ばしになり、八月の海野の誕生日を通り越して、九月の内野の誕生日が近づいていた。

もう誰の何を祝ったらいいのか分からない間抜けな状況ではあったが、我々の集まりとしてはよくあることでもあり、また結局のところ集まる口実さえあればいいのだから、大勢に影響はなかった。


店員さんおすすめのソムタムやヤムウンセンをつつき「辛い、辛い!」と喜びながら、さわDの受験奮闘記を聞く。去年リクルートを辞めてから、一日十時間、大学受験のとき以上に勉強する生活を、一年間続けてきたという。

大人になってから勉強に没頭する生活というのはなかなか大変だっただろう。さわDがグビグビと呷っているビールが、とてもうまそうに輝いて見えた。解放の象徴だ。

誕生日おめでとう&試験勉強おつかれ!!

また、ちょうどこの日は僕のグッドパッチ入社日でもあり、会社からそのまま来た僕は、シャツや社章などがたくさん入った紙袋を抱えていた。それを眺めて、さわDが、

「もうイワモトは完全にデザイナーになったんだなあ」

としみじみとした調子で言った。

十五年くらい前、大学在学中のあるときから僕がデザイナーを自称するようになって、やがて先輩の会社に拾われたことでそれは既成事実となった。この三人は、そうなっていく僕を隣で見ていた間柄だ。

一年かけて試験に臨んださわDの話と比べると、同じように専門家になるにしても、ずいぶん違うものだよなあ、ということを話す。

僕のほうはずいぶん成り行きのようだし、勉強をたくさんした覚えもないが、いつでも物を作ることに真面目に取り組んできたつもりだ。さわDはさわDで、僕は僕で、そうやって何かになってきたのだ。


店を出て、もう一軒くらい行くかと話していたら、海野が「まあじゃんがうちたいうちたいうちたいよお」とわめき出したので、文化村通りの「ZOO」に入った。準備運動の半荘を打った後、終電もあるので、サクッと東風戦を打つことにした。


東風戦が始まって早々に、さわDがリーチを仕掛け、そして誤ロンをした。

「まあまあ、飲んでるし、発声だけだしな」

「今日はさわDのお疲れ会だもんな!」

「親番だしアガリ放棄は可哀想だよなあ」

ということで見逃してあげたのだが、その数巡後にさわDがツモり上がる。

跳満、六千オール。全員の表情から、笑顔が六千点分ずつ消えていった。

とはいえ、我々も大人なので、おいおい、ちょっとちょっと〜、困りますよ〜、ふふふふなどと取り繕いながら対局を続けたのだが、そこからさわDは更に立て続けに二回、都合三回の跳満をツモり上がっていった。コールドゲーム成立、解散。容赦ない。

なんやねんそのリーチ

「あれをきちんと咎めてアガリ放棄にしておけばなあ!」

「誰だよさわDに優しくしろっていったヤツは」

「おれはああいうのはきちんとチョンボ扱いにするべきだと思っていたんだ! ルールなんだから! ルールを歪めてはいけないよお!」

帰り道、僕たちはいつまでもぐちぐちと見苦しく悔やんでいた。そして夏の湿った空気が残る道玄坂下で、「まったくふざけやがって、また集まろうな!」と言って別れた。


さわDの合格発表は十一月二十日。受かれよ!!!!

Ray の誕生日なのでおめたん LINE をすると、絢瑛と入籍したと返事が来た。おめでとう!

この一週間で、大野くんから「プロポーズしました!」と連絡があり、美穂子からも入籍したという知らせが届いた。少し前には加藤真悟も結婚した。いわゆる「結婚ラッシュ」的な波が少し下の代で起きている。とりあえず「式でも何でも力になれることがあれば言ってくれ!」と話している。

かつて一緒に夜通し酒を飲んで笑い転げていた友人たちが、それぞれの生活を選び取り、人生の新しい局面を迎えていく。その報告を受け取るたびに、友達が遠くへ行ってしまうような寂しさを感じてしまうけれど(そんなことは全くないはずなのだけど)、こういうモラトリアムの終わりを一匙ずつ受け取って、それを自分の皮膚になじませるようにして年輪を重ねていくのが人生なんだろうと思う。というか、こういう寂しさや切なさも含めて味わえる人生でよかった。みんな、どうか幸せになってくれ!

久しぶりに、納期の迫った仕事をひとつも抱えずに迎えた金曜の夜だ。(もしこれを読んでいる人で、僕に何かを依頼している方がいたらごめんなさい。見なかったことにしてください。)

あまりの開放感に浮かれてしまい、夕方から新宿を歩いて目についた雀荘に入って東風戦を四回打った。それから高円寺まで戻り、中華屋「福来門」(南口の方)で上海炒麺を平らげ、餃子をつつきながら深夜までダラダラと居座る。

鴫原さんが亡くなって今日で一年だ。亡くなったのは明け方だったはずなので、去年の今頃はもうこの世にいなかったのか、とか、死んでからの一年で夢に出てきたのは一回だけだったな、とか、大して意味のないことを考えたりした。

いくつか読みかけの本があるものの、あまり新しい活字を頭に入れる気になれず、あてもなく Kindle ライブラリをスクロールしていると、かなり前のセールで買っておいた中島らもの『今夜、すべてのバーで』が目に留まった。もうすっかり酒客としての生活からは遠ざかってしまったけれど、今夜の読み物としてはちょうどいいと思った。

読み始めてすぐに、アルコール依存症で特別病棟に入院している主人公の年齢が三十五歳だと知って、思わず腰を抜かした。こいつ僕より若いのかよ。

以前この本を読んだのは、確か中学生か高校生の頃だ。少なくとも僕がまだ酒の味を知らなかった頃なので、恐らく二十年以上も前のことだと思う。当時は「とんでもなく破天荒なオッサンの話」として面白がっていたが、今回は、

「まだ若いのに、こんなところまでいってしまったのか……」

と、作中に登場する医師や看護士たちと同じように痛々しい気持ちになってしまった。