ステージの端からのそのそと出てきて、たどたどしく「いえーい」と拳を掲げながら笑ってマイクの前に立つ。たったそれだけの間の振る舞いで、彼女のユーモアが会場に広がって、みんなが一瞬で心を奪われていくのを感じた。
柴田聡子である。アルバム『Your Favorite Things』を聴いて以来、ずっと生で演奏を見てみたいと思い続けていた。TBSラジオ『脳盗』にゲストで出ているのを聞いたり、詩集を読んだりしていたが、ライブを見る機会だけは逸していた。
ところが今日、ひょんなことからゲスト招待してもらったWWW Xの『PAKiPOKi』というイベントで、不意打ちのようにライブを見るチャンスがやってきた。ああ人生はすばらしい!

柴田聡子はエレキギターの弾き語りというスタイルだった。てっきりアコースティックだと思い込んでいたので少し驚いたが、いざ弾きはじめるとグレッチ(たぶん)が彼女の声に馴染んでいるのがよくわかった。
柴田聡子はカッコいいのだ、ということにも今日はじめて気がついた。音源を聴いている限りでは、洗練されたシティポップ、とか、肩の力が抜けたチル、なんてイメージだったのだが、もっとストレートに「エレキギターのカッコよさ」が柴田聡子そのものだという感じがした。不思議なことだが、僕の印象として近いのはゆら帝の坂本慎太郎だ。声とエレキギターで、自分が見ている世界を一瞬でその場に表現してしまう。圧倒的だった。
「雑感」や「Synergy」など、これまで自分が好きだった曲もよかったが、今日の演奏を聴いて「ワンコロメーター」が好きになった。音源では打ち込みなのだが、弾き語りではまったく印象が違う。アップストロークを頭にしてリズムを取っていくのがよかった。終わったあと物販でLPと本を三冊買って、サインをもらった。ふへへへ。

柴田聡子の曲は、日本語タイトルと英語タイトルがあるが、それが一致しているわけではない。というか、英語タイトルを見て「おや?」と思ったり、曲の捉え方が変わることが多い。
例えば「結婚しました」は「Good news」だし、「好きってなんて言ったらいいの」は「Can’t say」だ。このあたりは意訳といったかんじだが、「雑感」は「Understood」で、「いきすぎた友達」は「Friends Like Us」、「あなたはあなた」は「PEOPLE AND PEOPLE」となっている。こうなると意訳というより、曲のヒントというか、メッセージが増幅されているような気がする。
中でも特にハッとさせられたのは「後悔」という曲の英語タイトルが「Miss you」となっていたことだ。これを見たとき、僕はこの曲を超えて、そうか、ほとんどの「後悔」という感情は「Miss you」なのかもしれないな、と思った。
日本語の「後悔」という言葉には、どこか自分自身の足元ばかりを見つめてしまうような、重たく閉じた響きがある。引き返せない過去を悔やみ、終わってしまった出来事を一人で反芻する、落胆の渦のようなイメージだ。けれど、それを「Miss you」と置き直すと、その感情の向きはぐるりと外へ、もうここにはいない「誰か」や「何か」へと向かって開かれる。
「後悔」とは、過去に対する呵責ではなく、そこにぽっかりと空いた穴を愛おしく思うこと。届かない場所にいる誰かを、あるいは失われてしまった時間を、恋しく想うことなのかもしれない。




