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池袋の新文芸坐で、オールナイトのレオス・カラックス三本立てを見てきた。

オールナイト上映を見るのは初めてだ。子どもの頃、倉本聰のドラマ脚本でそういうシーンを読んだ覚えがあり(『前略おふくろ様』かな)、漠然と「昔はそういう文化があったのだなあ」と思っていたのだが、ひょんなことから今もやっていることを知った。

コロナ禍前、遊泳舎で働いていた頃には、深夜に仕事を終えて六本木ヒルズの TOHO シネマズで1時とか2時からやっているような映画を見ることがあったものの、朝までぶっ通しで三本となるとまた勝手が違うだろう。というか、さすがに寝てしまうだろう。


NiEW の真希さんにその話をすると、

「オールナイト上映は、寝るのも醍醐味です」

と返ってきた。

寝てしまってもよい、というだけでなく、寝ることにもよさがあるという。なんと清々しい心構えであろうか。そういうことであれば、むしろパジャマを着て寝に行ってやろうという気持ちになった。


今回見たのは、『ボーイ・ミーツ・ガール』『汚れた血』『ポンヌフの恋人』の「アレックス」シリーズ三部作。

初めに見た『ボーイ・ミーツ・ガール』は三本のうちで最もストーリーを追いづらかったが、唯一寝ずに見られたのもこの作品だった。動く写真集を眺めているようで、とてもよかった。パーティの最中、キッチンでアレックスとミレーユが横並びになって喋っているシーンが好きだ。


二本目の『汚れた血』、三本目の『ポンヌフの恋人』は、うつらうつらしながら見た。

フランス語なので音声に頼ることができず、話についていくにはずっと字幕を読まなければならないのだが、これがなかなか目にくる。瞼を閉じると、干からびた目の玉に潤いが戻ってくるようで、実に心地よかった。うとうとしていることで、映画の幻想的な感じもいっそう増していた。

『ポンヌフの恋人』の、アレックスとミシェルが酔っ払って笑いまくり、地面に仰向けになっているところが好きだった。花火と爆竹を背景に、抱き合ってくるくる踊っているシーンも最高だったが、いかにも映画として売れようとしている感じもあって、少しあざとさが鼻についた。(寝ているくせにこういうことは一丁前に言う!)


映画館の椅子はリクライニングではないので、けっして寝やすくはなかった。

休憩時間に、錆びついた身体に油を差すようにして池袋の街を散歩する。連日の長雨で冷やされた深夜の空気を肺に吸い込むのが心地よかった。池袋のやさぐれた街並み、風俗店やラブホテルの看板も、なんだか映画的に見えてくる。

今年の夏が洗い流され、新しい秋がやってきたのがわかった。

さわDの公認会計士試験がひと段落したので、麻布の同期である海野、内野を呼んで、渋谷のタイ料理屋「ガパオ食堂」に集まった。

もともとは七月のさわDの誕生日を祝おうという話だったのだが、試験勉強で忙しいというので先延ばしになり、八月の海野の誕生日を通り越して、九月の内野の誕生日が近づいていた。

もう誰の何を祝ったらいいのか分からない間抜けな状況ではあったが、我々の集まりとしてはよくあることでもあり、また結局のところ集まる口実さえあればいいのだから、大勢に影響はなかった。


店員さんおすすめのソムタムやヤムウンセンをつつき「辛い、辛い!」と喜びながら、さわDの受験奮闘記を聞く。

さわDは去年リクルートを辞めてから、一日十時間、大学受験のとき以上に勉強する生活を、一年間続けてきたという。大人になってから勉強に没頭する生活というのはなかなか大変だっただろう。さわDがグビグビと呷っているビールが、とてもうまそうに輝いて見えた。

さわDおつかれ!!!!

また、ちょうどこの日は僕のグッドパッチ入社日でもあり、会社からそのまま来た僕は、シャツや社章などがたくさん入った紙袋を抱えていた。それを眺めて、さわDが、

「もうイワモトは完全にデザイナーになったんだなあ」

としみじみとした調子で言った。

十五年くらい前、大学在学中のあるときから僕がデザイナーを自称するようになって、やがて先輩の会社に拾われたことで既成事実となった。この三人は、そうなっていく僕を隣で見ていた間柄だ。一年かけて試験に臨んださわDの話と比べると、同じように専門家になるにしても、ずいぶん違うものだよなあ、ということを話す。

僕のほうはずいぶん成り行きのようだし、勉強をたくさんした覚えもないが、仕事には真面目に取り組んできたつもりだ。さわDはさわDで、僕は僕で、そうやって何かになってきたのだ。


店を出て、もう一軒くらい行くかと話していたら、海野が「まあじゃんがうちたいうちたいうちたいよお」とわめき出したので、文化村通りの「ZOO」に入った。準備運動の半荘を打った後、終電もあるので、サクッと東風戦を打つことにした。


東風戦が始まって早々に、さわDがリーチを仕掛け、そして誤ロンをした。

「まあまあ、さわDは飲んでるし! 発声だけだし!」

「今日はさわDのお疲れ会だもんな!」

「親番だしアガリ放棄は可哀想だよなあ!」

ということで見逃してあげたのだが、その数巡後にさわDがツモり上がる。

跳満、六千オール。全員の表情から、笑顔が六千点分ずつ消えていった。

とはいえ我々も大人なので、おいおい、ちょっとちょっと〜、困りますよ〜、ふふふふなどと取り繕いながら対局を続けたのだが、そこからさわDは更に立て続けに二回、都合三回の跳満をツモり上がっていった。コールドゲーム成立、解散。容赦ない。

なんやねんそのリーチ

「あれをきちんと咎めてアガリ放棄にしておけばなあ!」

「誰だよさわDに優しくしろっていったやつ!!」

「おれはああいうのはきちんとチョンボ扱いにするべきだと思っていたんだ! ルールなんだから! ルールを歪めてはいけないよお!」

帰り道、僕たちはいつまでもぐちぐちと見苦しく悔やんでいた。そして夏の湿った空気が残る道玄坂下で、「まったくふざけやがって、また集まろうな!」と言って別れた。


さわDの合格発表は十一月二十日。受かれよ!!!!