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2022年4月1日の『Bell-Ship』で、僕がマネージャーを務めるbellFace(ベルフェイス株式会社)のデザインチームで行っている取り組みが紹介されました。

デザインマネージャーに聞く チームで生産性を高める相互理解のはじめかた(『Bell-Ship』2022年4月1日)

『Bell-Ship』は、ベルフェイス株式会社の採用活動のためのオウンドメディアで、僕の受け答えも「こんな取り組みをしているチームにジョインしませんか」というものになっています。

つまり、ある種のPRとして話している内容なのですが、その中に特筆すべきトピックが二つあります。この二つは、僕が最近マネジメントの実践をしながらよく考えていることで、どこかで友達と話したいことでもあるので、覚書としてここに書き出しておきます✍️

プロダクトデザインには、反復的な設計プロセスと、それを支える思考体力が必要

ー ベルフェイスのデザインチームはどんな組織ですか?

イワモトさん:

 反復的な設計プロセスと、それを支える「思考体力」を持ったチームです。

 反復的な設計プロセスとは、抽象的な概念、見取り図から出発して、徐々に具体的な細部の設計に向かうという流れの中で「必ずしも一方向に流れなくて良い」とする考えです。反復的な設計プロセスの中では、詳細設計に入ったと思ったら、少し前に戻って枠自体の修正を検討したりします。つまり、対象へのズームインとズームアウトを繰り返す、抽象と具体を反復する過程を通じて、段々と最適な形状に接近していくやり方のことです。

 例えば、クライアントワークを中心とした受託制作においては、一つひとつの決定を覆さないよう求められる傾向があります。ステークホルダーの意思や認識を「握る」と言ったりしますが、一度ひとつの案を通してしまったら、後から妙案を思いついたり「よく考えてみたら違うかも」という気づきがあっても巻き戻す形での提案は難しいです。

 一方で、自社サービスを作るときには、あらゆる決めごとは仮だと思って向き合った方がいい。常により良いあり方を考える可能性が開かれているべきです。それこそが「自社でつくる」ことの優位性なので。

このインタビューを読み返して、少し言葉が足りなかったと反省しました。この受け答えだと「反復的な設計プロセス」と「思考体力」の関係が今ひとつ分かりづらい気がします。

ここは、思考体力の説明から始めたほうが良いかもしれません。

思考体力とは、直訳すれば「考え続ける力」なのですが、もう少し言葉を足すと、何かを「仮の状態のまま」思考を続ける力を意味しています。(本当はそれ以外にもあるのですが、いったんここに限定して説明を続けます。)

何かを仮の状態のままにするというのは「x = 10, y = 40」と変数の値を定めてしまうのではなく「5 > x > 15, 30 > y > 50」というように、内容に幅をもたせた状態で物事を進めることです。

もっと具体的な例を挙げると「テーマカラーは赤」と決めてしまうのではなく「テーマカラーは暖色」くらいにしておいて、そのまま制作を進めて別の条件や狙いが生まれてから、戻ってきて正確な色を決める、ということです。

一定の幅をもった仮の状態の何か。それ自体をパーツにしながら全体像を作り上げていき、全体の形を見ながらパーツを調整していく。これを「反復的な設計プロセス」と表現しています。

そして、インタビューでも述べていますが、こうしたプロダクト開発を行うことができることこそ「自社でつくる」ことの強みなのです。(あるいは、大企業に対するベンチャー企業の強みともいえるかもしれません。)

クライアントワークでは、担当業務や責任箇所を細かく決める必要があるため、こうした進め方をすることはまずできません。クライアントワークで求められる能力はむしろ逆で、「決めること」「握ること(決めたことを覆さないこと)」です。クライアントワークにおいて優秀とされる人が、自社プロダクトの開発においてもそうだとは限りません(逆もまた然り)ので、その点は十分注意が必要です。

個人の生産性以外にアプローチすることで、チームの全体の生産性を高める

ー デザインチームのマネジメントをする上で意識していることはありますか?

イワモトさん:

 チームマネジメントにおいて、チームの生産性を高めることは至上命題ですが、僕は「個人の生産性以外に着目して、チームの生産性を高める」ことを意識しています。

 チームの生産性を単に「個人の労働の総和」と認識していると、チームの生産性を上げようとしたとき、個人の生産性を高めようとするアプローチを取ることしかできません。すると、メンバーに対する業務的な支援は「もっと能率よく働こう」という内容になってきます。

 そうではなく、チームメンバーの働きの連携部分を改善することで、一人ひとりの生産性は変わらなくても全体の生産性を向上させることができると考えています。単純な総和ではなく「足し方」にも工夫があるということですね。これには、メンバー同士が互いの個性を理解することが必須です。すると、マネージャーがメンバーに行う業務支援は「どうしたら他のメンバーを理解できるか」という内容になってくるはず。

 ベルフェイスはフルリモートの組織なので、そもそもセルフマネジメントのできる人たちが集まっています。だから、個人の生産性にアプローチするよりも、協業のコツを伝える方が合っていると感じます。リモートでの連携方法を協議して工夫するとか、全体としてチームワークに意識を向ける。個人の生産性については「チームプレイが楽しくなってきたらそれなりに上がるだろう」と、楽観的な気持ちでいます。

ー なるほど。具体的に実施していることはありますか?

イワモトさん:

 メンバーの価値観や経験を知ることに注力しています。その人が何を良しとするか、どんなことに納得するか、何を許せないか、などはその人の価値観によります。価値観は経験によって形成されるので、今はチームメンバーがどんな経験をしてきたのかを知り、物事をどのように考えるのかを確かめているところです。

ここで僕は、いま自分が「人と人の連結部分に目を向かせる」チームビルディングを実践している、という話をしています。

この話の主旨は、マネジメントは「人のメンテナンス」ではなく「人と人の関係性のメンテナンス」であり、そこを調整することでチームの生産性を向上させることができる、というものです。

インタビューでは端折ってしまったのですが、ここでは少し手前から説明をしてみます🙋‍♂️

仕事に限らず、日々の人間関係でもいえることですが、世の中には「悪い人」が存在するのではなくて「悪い関係」があるだけです。自分から見て悪だと思える人が、他の人からは善に見えている。その人が悪だったり善だったりするのではなく、その人と自分の関係性によって悪に見えたり、善に見えたりするのです。

旧友と再会して「あれ、何だか前と変わったな…」と感じることはよくあります。このとき「友達が変わってしまった」とか、あるいは「自分も変わったんだろうな」と思ったりするかもしれませんが、変わったのは人ではなく、その人と自分を結ぶ関係性である、というのが僕の考えです。

つまりここでは、人そのものがイメージを持っているのではなく、人に対するイメージを決定づけているのは「関係性」である、という前提に立っています👺

この考えを、チームワーク、チームビルディングに応用して生まれたのが「チームメンバーの働きの連携部分を改善することで、全体の生産性を向上させることができる」という発想です。

この取り組みのためには、チームメンバーの働きに着目するのではなく、働きの連携部分に目を向けなければなりません(=全体を運動として捉える)。マネージャーだけでなく、メンバーそれぞれがこの認識を持っている状態が理想的です。

まず最も効果的なのは、メンバーからの報告を受けるときのコミュニケーションに手を加えることです。

普通にメンバーからの報告を待っていると「こんな業務をしました」という情報が上がってくるだけになってしまいます。もちろんそれは把握すべき情報ですが、より重要なのは、メンバー同士の関係性を確認することです。

報告者には、他のメンバーとどのような関係にあるかを聞き出します。あるいは、メンバーAに対して「メンバーBとメンバーCの連携って上手くいってる?」と尋ね、そこに注意が向くように働きかけます。

そして、どこかでメンバー間の調整が必要だと判断したら、自分一人でどうにかしようとするのではなく、しかるべきメンバーに協力してもらいます。何も全員が全員と良い関係性を維持しなければならないわけではありません。人には相性というものがあり、どうしても上手くやれない間柄もあります。メンバーAとメンバーBが上手くいかないのであれば、メンバーBと上手くやれるメンバーCにフォローしてもらいましょう💪

目的は全員が仲良くすることではなく、チームの生産性を高めることです。どこが最も連携が取れているか、どこがネックになっているか、どこからフォローを入れれば良いか、ということをお互いに理解して行動することで、チーム全体の生産性を高めようという戦略なのです。