しかし、ルソーの構想においては、人民が社会契約で生み出したのはあくまでも一般意志であり特定の政府ではないので、そういう話にはならない。政府は一般意志の執行のための暫定的な機関にすぎない。だから、人民はいつでもその首をすげかえることができる。ルソーははっきりと記している。「たまたま人民が世襲の政府を設ける場合、それが一家族による君主政であろうと、市民の一階級による貴族政であろうと、人民が行なったことはけっして約束ではない。それは、人民が別の統治形態をとろうという気を起こすまで、人民が統治機関に与えた仮の形態にすぎないのである」。この主張がフランス革命を準備した。
社会契約は、あくまでも個人と個人のあいだで結ばれるものであり、個人と政府のあいだで結ばれるものではない。主権は、人民の一般意志にあり、政府=統治者の意志にはない。
(東浩紀、2011『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』講談社)