かつての尚成は、理由が差し込まれる隙間がないほど確定的に、自分は同性愛個体だとバレてはいけない、特に学校関係者や家族には絶対に知られてはならないと思い込んでいました。
それはなぜか。
決して、自分が周りの個体と違うことそれ自体を恐れていたからではありません。その事実を以て当時所属していた主な共同体側から、均衡、維持、拡大、発展、成長を阻害する個体として認定されることを恐れていたからです。
それはなぜか。
共同体が目指すものを阻害する存在だと認定されることは、ヒトの場合、共同体側から〝悪〟とみなされること、つまり共同体から追放される可能性を高めることだからです。
(朝井リョウ、2024『生殖記』小学館)