祐治は晴海を思い、知加子の腹の中で成長をとめた子を思い、苦悩に悶えた。生きている間の辛苦は本人と共有できるが、死は別だ。死だけは本人ではなく、側にいる人間が引き受け、近いほど強烈に感じ続ける。
(佐藤厚志、2023『荒地の家族』新潮社)
The shoulders of Giants
祐治は晴海を思い、知加子の腹の中で成長をとめた子を思い、苦悩に悶えた。生きている間の辛苦は本人と共有できるが、死は別だ。死だけは本人ではなく、側にいる人間が引き受け、近いほど強烈に感じ続ける。
(佐藤厚志、2023『荒地の家族』新潮社)
「可哀想だけど、あんたがどんなにあがいても、もうあの夜は取り戻せないんだよ。おひょうさんはもうあんたと違う場所に立って、違うものを見ている」
栄利子は手すりからずるずると体をすべらせ、そのまま床にうずくまった。それでも、圭子はしゃべるのをやめようとしない。
「思い出は思い出として大切にとっておけばいいじゃない。たとえ幻だったとしても、楽しい時間を一瞬でも過ごせたんだから、それでいいじゃない。私には確認しようもないけど、もし、本当にその瞬間、あんたたちの心が通い合っていたとしたら、その夜は宝石みたいなもんなんじゃない? 取り戻せないからこそ、大切な時間だよ。それなのに、あんたはその奇跡に感謝しようともしない。あってしかるべき状態と決めつけている。相手にあれと同じものをもっとくれ、としつこく要求するのはやめなさいよ」
(柚木麻子、2015『ナイルパーチの女子会』文藝春秋)
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