わたしは別に、許せなくないかもしれない、とふと思う。許せないから芦川さんのことが嫌いなんだと思っていたけれど、芦川さんのことを嫌いでいると、芦川さんが何をしたって許せる気もする。許せない、とは思わない。あの人は弱い。弱くて、だから、わたしは彼女が嫌いだ。
(高瀬隼子、2022『おいしいごはんが食べられますように』講談社)
The shoulders of Giants
わたしは別に、許せなくないかもしれない、とふと思う。許せないから芦川さんのことが嫌いなんだと思っていたけれど、芦川さんのことを嫌いでいると、芦川さんが何をしたって許せる気もする。許せない、とは思わない。あの人は弱い。弱くて、だから、わたしは彼女が嫌いだ。
(高瀬隼子、2022『おいしいごはんが食べられますように』講談社)
「でも? やっぱり自分の脚は嫌いなの?」
「はい」
「そうか」
E藤先生は笑った。
「これは医者としてじゃなく、一人の人間として言うんだけど、怒らないでね」
「怒りませんよ」
「私は、あなたが人よりうんと頑張れる人になれたのは、その脚のお陰なんじゃないかと思うわ」
E藤先生はひらりと立ち上がった。私の脚からしっとりした手の感触が消えた。私はジーパンを上げるのも忘れ、長いあいだ壁を見ていた。
ねえ、あなたの脚が、ずっとずっと、あなたを守ってきてくれたんだとは思わない?
(石田夏穂、2023『ケチる貴方』講談社)
マイノリティを差別しないのは、そういう時代だから。そうでない時代を構築した過去を本気で反省し謝罪し改善したいわけではなくて、なんかそういう時代になったから。この感じだと、何十年後、共同体や種が今よりもずっと縮小していて、かつ体内受精を始めとする有性生殖でしか次世代個体を発生させる方法がないままだったら、やっぱり同じようなノリで再び同性愛嫌悪の空気が再構築される可能性めちゃくちゃありますよ。だって、そういう時代だから。
(朝井リョウ、2024『生殖記』小学館)
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