「もし、なんていうの、下半身が着脱式で、セックスするときに好きなほうを選べるみたいなことになったら、私絶対男性器を選ぶし挿入する側に回る自信があるんだよね。幹事とか運転役に自然になるみたいに、そういうときもそっち側のほうが絶対しっくりくるはずなの」
(朝井リョウ、2024『生殖記』小学館)
The shoulders of Giants
「もし、なんていうの、下半身が着脱式で、セックスするときに好きなほうを選べるみたいなことになったら、私絶対男性器を選ぶし挿入する側に回る自信があるんだよね。幹事とか運転役に自然になるみたいに、そういうときもそっち側のほうが絶対しっくりくるはずなの」
(朝井リョウ、2024『生殖記』小学館)
たとえばセックスから介助まで、身体の接触を伴うコミュニケーションでは、言語外の、無意識の領域も含めた双方向的なコミュニケーションが発生する。このとき相手を独立した存在として尊重しつつ、互いの身体の一部を同化させることが要求される。こうしたコミュニケーションが成功したとき、自己の一部が他者と融解することで、自己を維持したまま他者に向けて開かれる。
セックスにおける相互の自己滅却の欲望が交錯した結果もたらされる生成から、介助者と被介助者との間に発生する生成まで、ときにロマンチックな修辞を凝らして語られるコミュニケーションの共通点は、自己を部分的に滅却し、他者と部分的に同一化することが、その対象を他の人間と交換することのできない存在であると認識させる点にある。このとき「私」は「私たち」になる。
(宇野常寛、2022『砂漠と異人たち』朝日新聞出版)
「 […] でもね、言葉はどこまでいっても不便な道具です。使い慣れる、ということがない。僕は未だに和子と喧嘩するよ。たまに会う若い学生さんの言葉を遮りもする。誰かの言っているとが全然分からなくて、耳が悪いふりで誤魔化したり……その代わりになるものがなかなか見つからないから、ずっと使っているだけのことでさ。僕はねぇ、こう考えたことだってあるんだよ? 例えばセックスはどうだろうって?」
學がこんな露骨な単語を口にすることに統一は眉を顰めると同時に、思わず姿勢を正してしまう。
「うん、これは言葉より確かだ。近く感じる。何より温かい。でも続かない。やはり、僕は言葉の方が性に合う。何かと刹那的な感覚に辟易している世代だから、不変的な、それでいて普遍的なものが欲しいんですね。そして、結局、僕には祈りしかなかったんだよ。つまり、今自分が語っている限界のある言葉を、聖霊が翻訳して、神に届けてくれる。それによって、何はともあれ、すべてやがてよしとなる、と信じること。もしかしたら、あらゆる言葉は何らかの形で祈りになろうとしている、ともいえるかもしれない、とこう思うんだね……や、悪いなぁ、君にはいつもこうやってお説教をしてしまって。 […] 」
(鈴木結生、2025『ゲーテはすべてを言った』朝日新聞出版)
人は一般に、愛の方が性欲よりも崇高で、純粋だと勘違いしています。しかし、私に言わせれば、これは言語道断の誤解であって、愛などというのは、偽りと打算に満ちた、遥かに不純な代物です。愛が脆いのは、その混ぜ物のせいです。
しかし性欲は純粋です。それはただ、ひたすらに合一化だけを夢見る欲望であって、決して愛だとか、況してや生活だとか(!)に堕落することはないのです。
(平野啓一郎、2014『透明な迷宮』新潮社)
問題はここに言われる「快」が何かということである。それはたとえば「快楽」という言葉で想像するような激しい興奮状態のことではない。その正反対である。生物は興奮状態を不快と受け止める。生物は自らを一定の状態に保とうとする。
だから一見したところでは不思議に思われるかもしれないが、生物にとっての快とは興奮量の減少であり、不快とは興奮量の増大なのである。生物はつまり、ある一定の状態にとどまることを快と受け止めるのだ。
そうするとすぐにこうした反論が出てくるだろう。性の快楽は人間が強くもとめる快楽であるが、これは興奮量の増大としか考えられないのではないか? ならばフロイトの言う快原理はこの単純な事実と矛盾しているのではないか?
フロイト自身がこの反論をあげて、答えを出している。性の快楽は快原理と矛盾しないのである。なぜなら性の快楽は、高まった興奮を最大限度まで高めることで一気に解消する過程に他ならないからである。オルガズムを得ると、興奮は一気にさめ、心身は安定した状態を取り戻す(フロイトは性的絶頂の後の身体は死と似た状態にあるとも述べている)。性の快楽はこの安定した状態への復帰のためにあるのだ。
(國分功一郎、2021『暇と退屈の倫理学』新潮社)
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