2024-03-14
必殺仕事記号
アニメ『葬送のフリーレン』の人気には、昨今のジャンプ系アニメの勢力が強大過ぎたからこそ生まれた、という側面があると思う。『SPY×FAMILY』『【推しの子】』『マッシュル』『呪術廻戦』『鬼滅の刃』など、個々にユニークな魅力はあるものの、同じ「ジャンプ味」のアニメばかり食べていたところに、サンデーから少し違った味が出されたからこそ多くの人々に深く刺さった、という見方だ。
そんな『フリーレン』の非・ジャンプ的なノリに一役買っているのが、句点記号「。(マル)」の存在である。サンデーの漫画には、セリフの最後に文末を示すマルが付く、という特徴がある。これによって このことがサンデー漫画には、特にフリーレンには深い影響を与えている。ジャンプ漫画と、サンデーマンガのノリの差に影響している。
『フリーレン』はJRPGの冒険ファンタジーの世界をベースにしており、魔族との激しい戦闘シーンもあるが、キャラクター同士の会話は文章的な言葉のやりとりを主体としている。それによって喜びも悲しみも落ち着いたトーンで穏やかに描かれ、コミカルな部分についても、キャラクターたちの訥々とした喋りが笑いを誘う形で成り立っている。こうした作風とマルの相性は非常に良い。恐らく、アニメにおいても、声優が読み上げる際の調子に影響を与えているだろう。(余談だが、なろう原作で同じく小学館からコミカライズされている『薬屋のひとりごと』でも、同様にマルがよく働いている気がする。)
マルについては最近、こちらは不名誉な働きとして「マルハラ問題」というものがあった。LINEのやり取りにおいて文末にマルが付いていると、読み手が「冷たい」「怖い」「威圧的」といった印象を受けるというものだ。こうした感じ方は若年層に多く、世代間ギャップとしても話題になった。
マルのない文体で話すジャンプのキャラクターがメインストリームを占めているからこそ『フリーレン』のキャラクターの言葉遣いが際立つように、SNSやLINEではマルのない投稿ばかりだからこそ、わざわざ付けられたマルは特別な存在として、元来期待された以上の働きを見せるようになっている。マルは人々の生活から影を潜めながら、ここぞというところで出てきてズバッと力を発揮する「必殺仕事記号」として世に暗躍しているのである。